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ローリン・ダイニング!!

Rowlin’Dining! すべての作品は、新作の材料だ!
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 ずっとあなたが・・・ 4

 自分のやりたいように、動く――。
 その動く方向が、たまたま中学受験の問題の学習だったわけで、平たく言えばそれだからこそ、彼は偏差値70をマークできたのだ。
 もちろん、狙って取ってきているわけではない。
 模試を受けに行って、ただ「答えを書けた」というだけである。偏差値70をとろうとして取ったわけではないのである。
 彼は恐らく、その行動に何ら疑いも持たなかった。偏差値70は自分でも誇らしいし、そしてそれが余裕そのものの行動であり、それがどうも世間的には非常に難しいことであることも、周囲の様子から察したのである。
 なによりも、目標としていた慶應大学系の中等部の合格確率80%と出ていたことが、彼にとってそれが正しいことの証明だったに違いない。特に気合を入れたわけでもない、
(実際、試験範囲があって勉強しようとしても、マトモにやれた試しが無い)
ただ普通に解答用紙に回答しただけで、とんでもない結果に大人たちが目を見張る。これが嬉しくて嬉しくて仕方が無かったのかもしれない。
            ◇
 小6生になってから、1箇月が過ぎた頃のことだった。
 ひどく悄然とした雰囲気で、通塾してきた。
 ちなみに。
 彼は機嫌で動くため、授業に出てきても、いつも「授業に受ける」という姿勢態勢ではない。そのときの感情そのままで来る。八つ当たりをすることは無いものの、怒っていたり疲れていたりハイテンションだったり拗ねていたり――とまぁ、退勤後にキャバ嬢に甘えに行くみたいな感じだった。「授業が始まるから、気持ちを切り替えて」なんて考え方を、持っていないのだ。お気に入りのメガネを失くして授業開始時間までに見つからないだけで、まるで処刑直前のような勢いで泣き喚いて、メガネのスペアを持って父上が彼の背中を押して教室に連れてきたものの、結局大泣きが止むこと無くそのまま授業を休んでしまうくらい。
 いつのことだったか、実際どんな風になったかは、なぜかあまり記憶に無い。
 あまりにも沈んだ雰囲気に、尋常でないものを感じたものだが、なぜかすぐに見当がついた記憶がある。
「ママがね、(慶応大学系の中等部――目標校)を受けさせないって……」
            ◇
 こうなるかもしれないことを、わたしも頭のどこかで想像していたのかもしれないと、今となっては思う。彼のその言葉の後に、理由をわたしが引き取った。
「もし1次試験(紙のテスト)を受かることがあっても、2次試験は家柄が原因で落ちることになるからダメだって、言われたんでしょ?」
 ここで彼は、「うん! うん! そう!!」と急に力強く頷いた。
 中学受験は多くの学校では、筆記試験(紙のテスト)だけだが、面接を課すところもある。だから、慶應大学系は例外なのだ。2次試験があり、それは父母とその子で臨む面接審査なのである。
 以前、その試験日にそこの最寄駅の喫茶店にいたときに、上品な光沢を含んだいかにも立派な生地の黒服に身を包んだ、父親らしき男性と母親らしき女性と、明らかに小6生とは思えないような佇まいを見せる子供の組み合わせが、何組もいて驚いたことがある。彼らの話を聞いてみると、「わたしはTOEICで900点は余裕だけど、」とか、自らのすごいステイタスの話をしていた。
 保護者への質問があるということは基本、「職業はなにか」と同時に「今日は休んできたのか」などを始めとして訊いてくることが想像できる。経済状況というよりは家庭の水準を調査し、親子関係と家族環境の良し悪しを測ろうとしているに違いない。
 ところで、彼の父親は、自営業である。
 賃貸不動産の自営業――つまり、ほとんど働いていないのだ。昼間は大抵自宅のソファにて、寝ているのだそう。
 そうした我が家の日常が2次面接で不利に働くと、一家の司令塔たる母上が断言しているのだ。「家族の生業が原因で不合格だったら、どうするのだ?!」といった肚らしい。
            ◇
 それを聞いたわたしは――図星とはいえ――憤慨していた。
 そもそも、慶應中学を幼稚園時代の彼に見せに行ったのは、誰か。
 彼に憧れを持たせて、そのまま放置して1人努力をしてきたのに反応してやらず、可能性が出てきたら、こうしてにべも無く斬り捨てる――。
 いくらなんでも、これはあんまりではないか。
 狙って偏差値70にすることは難しいし、小1生の段階で「まず無理だ」と言っても、塾に行かせた。塾をまったく信用することが無かったにせよ、6年間も時間があったのだ。万に1つ、慶應中学を合格できるだけの実力が身についていたら、その努力とセンスは讃えてやるべきだし、子供がそこまでしてきたのだから、親だからといっても子供の期待に応えてやるべきではなかろうか。6年間も時間があったのだから、もしものときの用意くらいしなかったのは、怠慢もイイトコロであろう。
 それで謝ることも無く、彼の実力を讃えることもなく、「受験はさせない」と簡単に言い放つことで、6年越しの希望を無残に握り潰して落胆させてしまうのだから、一体この親は何を考えているんだろうと、他人事ながら本気で悩んでしまった記憶がある。最終的に断念させるにしても、断念のさせ方だってあるだろうに、どうかしていると思ったし、今だってあの親の言動には納得いかないものが少なくない。
 学費が無いわけではないのである。歳をとってからできた子供だから、可愛がっていることは、彼の様子を観察していれば、実に良く解る。慶應中学でなくても、息子を私立中学にやりたいという肚は、あったのだ。
          ◇◇◇
 次回の更新は、3月11日を予定しています。
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