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ローリン・ダイニング!!

Rowlin’Dining! すべての作品は、新作の材料だ!
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『 HBC 06 』

 ミナミは壁の前に立って、深呼吸をしながら、巨大な絵と対峙した。
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  オ マ エ ハ 何 ヲ シ テ イ ル ノ カ 。
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 声が、聞こえた。
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  人 ノ 生 キ ル 道 ガ ア リ ナ ガ ラ 、
  ソ レ ヲ 拒 ミ 流 サ レ テ 生 キ ル ノ ハ … … 何 故 カ 。
            (1行改行)
 ミナミは、目を閉じる。
 恐竜は、今や巨人でもなくなっていた。
 見る者に終末の日とか破滅を感じさせる、巨大で不吉な怪物だった。
 巨大な怪物の、爬虫類じみた目だけがきょろっと動いて見下ろしている想像を、した。最強の獣は、問いかけてくる。いつ飛び掛かってきてもおかしくない雰囲気を発しながら、獣は蜃気楼のように、ゆらゆらと不気味に揺らいでミナミの前に立ちはだかる。
 妄想の怪物は、何かに似ている気がした。
「――あ、」
 メロンの露天商での出来事が、よみがえる。売人の背中越しに見た、眼。
「ヘイ、」
 カツーン、と床が鳴った。ひとけのない地下街の石畳は、ヒールの音がよく響いた。
「メロン転がして気を逸らせるなんて、なかなか大胆なことやってくれるじゃない」
 振り返ると、階段から黒いスーツの女が悠々と降りてきた。
 長くてしなやかな脚、折れてしまいそうな腰つき、胸元を隠すほどの質量を感じさせる髪………彼女は、月明かりの下のその女は、――神だった。
 今度こそ、ミナミは直視するまい、と思った。神々しいものは、資格のない輩が見ると失明したりすると言われる。しかし、今度もミナミは視線を外せなかった。
 だが、右手で顔の半分を隠すことはできた。左目が失明してしまっても大丈夫なように。
 しかし、顔の右半分を隠してみて、すぐに違和感を覚えた。
 カツーン、カツーン、…………。
 階段を降り切った彼女は、月明かりの下から、人工の光の中に入ってきた。
 女神は、地上に降臨してしまった。
 急速に褪せていくものを、ミナミは己の裡に感じ取っていた。
 ――理想が現実になってしまった!
 ――女神が女になってしまった!
 遠くにあるべきものが、近くにあるものと変わらないことに気付かされてしまった。
「~~~~~~~~~~」
 恨めしさを含んで見ているミナミと、その女の目線は同じくらいの高さだった。身長は恐らく、170くらいであろう。
「あの後どうしたの。大丈夫だった?」
 怪物は、もういなかった。ミナミは右手を顔から下ろした。
 女を、睨みつける。
 食い入るように。
 引き裂くように呪うように、キツく見つめた。
 そして、息を呑んだ。目に込めたチカラが、抜けていくのをミナミは感じた。
 ミナミは盛大な溜め息を吐いた。溜め息を吐いてみると、落ち着いた。
 だから、頭が垂れた。両膝に手をついて、上体を支えていた。全身からぶわっと汗が滲む。それでも鼓動が高鳴っていることを不思議に思ったが、それ以上に猛烈な疲れがきたのである。
「……どうしたの、大丈夫?」
 すぐ近くまで来た女は異常を感じたのか、一メートルほど距離を保ったまま、ミナミを見ていた。怪訝な表情と呆れたような表情が表れては消え、そして、肩で息をして汗を垂らして石畳に水玉模様をつけているミナミの後頭部をじろじろ見てから、ポツリと言った。
「ちょっと、歩かない?」
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