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ローリン・ダイニング!!

Rowlin’Dining! すべての作品は、新作の材料だ!
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ノワールな作者

 13日(日)。
 社員どもが当てにならないので、ここ近頃の私は、朝早くから出勤して厨房を開け、材料のスタンバイにとりかかっていた。
 元々14時には退勤する契約なのに、黙っていると16時を過ぎても解放されなかったりする、危険極まりない店長だ。
            ◇
 社員は店長と新入りの2人いるが、人のいる内にできる仕事を片付けようともしないし、自分勝手なことばかりやる。効率性などを考えてもいない
(面倒なコトを人に任せ、自分は既に仕事に着手していたスタッフをどかせててその仕事を取り上げる)
 し、遊びみたいなことを忙しいときに考えもなく思いつきでやる
(なんで、ランチの忙しいときに炊飯器でケーキなんかつくらなければならないんだ。それも炊けた米を強制退去させてまで)
 から、迷惑なことこの上ない。
            ◇
 その場から離れるにしても、自分が散らかしたものくらい片付けてから立ち去ることすらできないのだ。これで「ここでは数少ない外食業界の経歴所有者だ」といわれても、身についているものは多くないといわざるを得ない。
 こんなヤツらだから、私は一人でテキパキやっている方が仕事はスムースに進むのである。
            ◇
 単純な仕事も複数人でやる場合は、一筋縄にならないのだ。例えば、メインで動く人を助けるにしても、その1歩先の仕事を取ると、そのメインの人物にとってはやりづらくなる。そのメインの人物の頭には「作業の流れ」があるから、1歩先を取ることとは、彼にとっては「すぐ次の仕事」であり、それを崩されると、ペース自体を狂わさせられることに繋がるからだ。
 こうしたことまで分かれ、とは言わない。これくらいまで分かる人物など、まず以っていないからだ。
 そう考えると、アルバイトに任せるような仕事でも、それを完璧に板に付くくらいにマスターすることとは、容易なことではないのだ。逆に言えば、頭を使っていれば、アルバイトの仕事でも身に付くものは決して少なくはないのである。まぁ、正社員が担う営業上の知識や経験は得られないのだが。
            ◇
 ともかく。
 邪魔が来る前に一仕事を片付けておこう――、そういう肚であった。
 それがあれば、社員どもがいかに手を抜こうとも、15時には退勤できるハズですらあるから。
 契約の出勤より2時間も早い。小遣い稼ぎには結構良かった。
 だが。
 先々週だかに「本社からそろそろ文句を言われる」などということで、早朝勤務の手当てが打ち切られることになった。本社の監視カメラがついているのだ。
 そもそもが10時出勤で統一されているわけだから、朝早くから独断で動くスタッフの存在はイレギュラーであり、店長の上の人間たち――課長や部長に許可を取る必要があるし、そんな例外が今まで存在しなかった(やるとしたら店長自身がそうやっていた)のだからから、あまりいい結果にならないと踏んでの差止め忠告なのだろう。
            ◇
 だが、それでも今まで通りに、無給で仕事をしていた。
 理由は、
・ 先に終わっていれば自分の仕事が不快にならないから
 → 厨房開けなどが終わらないと、社員どもはしょっぱいままそこを放置して消えてしまう。それで仕事がうまくいかないと叱るのだから、タチが悪い。これはレストランのときでもそうだったが、それにしても、なんでこんな愚か者が多いのだろう。
・ 厨房の調理器具を行使可能だから
 → どこをとっても平穏ではない我が生活は、食事すらまともにありつけない。ゆっくりとまともな食事を取るには外の方が都合が好いし、持込みの材料なら従業食よりもコストが安い上に、一般家庭のそれよりもおいしく仕上がる。
 こうした理由が背景にある。
 2番目の理由が大きい。これだけでも早くに来る価値はあるし、それなら仕事をする必要はないのだが、「そこにいるついで」で仕事をしてしまう。
            ◇
 監視カメラがあるわけだし、いざというときは、「この時間は無給である」ことと「社員どもがアホだからこうなったわけだ」という抗弁になるかもしれない。
 但し、こちらにも弱点はある。「じゃあ辞めればいいだろ」と言われると、強気で「ああそうする」といえない身の上が痛すぎる。仕事を失えば、この仕事に着任するのですら大変だったわけで、もう雇ってくれるところなど比較的マトモなところ(つまり飯場などの日雇い労務者的なもの以外)ではないのだ。そうでなくても、雇ってもらいづらいのだから。辞めたくても辞められない――地獄手前にはまことに相応しい表現だ。
            ◇
 さて。早朝勤務に手当てがなくなった――。
 ……しかし。今更ながら、考えてみれば妙な話だ。
 それだったら、14時以降の契約外の勤務である延長時間にだって、何かしらの制限がつくべきなのではないだろうか。時間外勤務の割増賃金で貰っているわけでもない。
 要するに、監視カメラに早朝の時間にたった一人映っているのと、15時で集団が映っているのとでは、客観的に見える本社の人間からの印象が違うってことなのだろう。前者は自分が必要の末に言いつけたわけではないが、後者なら「忙しいから伸びてもらいました」といえば、とりあえず上の人間は「(店舗営業は忙しいものだから)仕方がない」と思うのかもしれない。
            ◇
 あと、あの店長。
 私は茹麺機を起動させると、持込みのジャガイモを茹でて仕事をする。茹でたら炭火で焼く。こうして「じゃがバター」をつくっていた。
 で、10時に出勤してくるスタッフに味見を配ったりもしていた。
 あの店長は、味見を他のスタッフに私が「やる」とは言ってもいないのに勝手に勧める。だから、既に物がないときにそうなったりすると気まずいことこの上ない。
 じゃあ自分自身が欲しいのか、といえばそうでもない。その場の全員に上げているから裾分けをやると、実に迷惑そうな顔をする。黙っていれば、もらっていながら手を着けなかったりする。
「腹をくだしているから、いいや」
 そういって、先日やっと断ってきた。
 こちらもイヤな感じのヤツだと思っていたので、最近はこうした食事のときをうまく回避する手段を考えていたのだ。
            ◇
 で、ここでやっと13日の話になる。
 朝来てみると、冷蔵庫になんと、ジャガイモがある。店で仕入れたものではなく、個人で買ったものだ。
 私は「きたあかり」だが、それとは違う種類のものだ。
 あとで出勤してきた社員に聞いてみると、店長が持ってきたものだという。
 それも、店長が前日じゃがバターをつくってスタッフに裾分けしていたらしい。
            ◇
 ……コメントのしようがなかった。全力で呆れてしまった。
 前の高田純次も私に対する当たり方は、子供みたいなところがあったけれど(葱を切るにしても客を通す効率にしても若い女の子に対する姿勢でも)、まさか今回の店長はこんなところでこんな情けない真似をするとは!
 そういえば、炊飯器でケーキをつくるにしても、その日の朝、乾いたケーキの一片が作業台に放置されていたし、その前日はホットケーキミックスの粉が置いてあった。
 この店長は、要するに自ら話題をつくってチヤホヤされたいのだ。
 この店に関する姿勢だってそうなのだ。
 それが前向きに働くところはあるとしても、それ以外はどうしようもないような輩なのだ。考えてみれば、義務教育課程で4回も退学になるような人間だから、知性、理性、品性、常識、世間体についてそれなりのものを持っているとは思えない。単に、自分が興味を持ったもの、好きなものに関して愚直なだけなのだ。創作の物語の中では、そういう不器用な人物はよくあるし、大概が美しく描かれているものだ。
 この店長は、確かにそういう部分がなくはないけれど、かなりの賤しさが常に伴っている。きっとこれが、現実なのだ。
 追伸。「人材」という言葉についても、この店長の行動と言上は、矛盾があった。それは後の機会に回す。
            ◇
 こういう、或る意味どうしようもない人物ってのは、うまくいけばいい王様になれる。
 前の塾長もそういうところがあったけれど、要するに日常の実業務に口出ししないで、完全にその店の象徴というか“顔”として振る舞うだけでいいのだ。スタッフという官僚や常備軍が或る程度大人で有能でさえあれば、
(「大人で有能でさえ」――ここが問題でもある。
 大概のスタッフはホドホドに手を抜こうと考える普通の人だから、そいつらを一生懸命に働かせるには、店長自身が結構実務が出来て必死でないと、働いてくれない)
 放任してくれた方が職を全うしやすい。それについて信用も置かれるし、安定はするのだ。尚、名君とはたまにあるクレームや業無責任に関わる事項について、いい裁きを演じられるかだけでその采配の善し悪しになるのだ。
 いってしまえば、
「実務に関してはお前に任せる。ただ俺は責任は引き受ける」
 こういうことが可能にできるボスが、理想なのだろう。ビジネス書なんかはこんなところを示唆しているものも少なくないんじゃないかな。
          ◇◇◇
 14日(月)。
 教え子その③がおおはしゃぎする。漢字テストは罰ゲームを賭けているから必死なのは分かるが、これが悪循環になってきている。勉強して完璧にしてこないのが悪いのだが、これだと放課後の時間に私が手が空いていて補習をしようにも、罰ゲームの課題が重すぎて、それが立ち行かなくなる。また、漢字テスト中にもヒントを欲しがって喋りまくるから、効果的だった制度が百害にしかならなくなった。
 で、授業は模試の見直しをやるも、正答を記憶して当たるので、いい授業にならないことが分かる。しかもテンションが上がっているから「当たっていさえすればイイ」の態度である。だから急遽取扱い教材を替えることにするが、所詮は読解国語、残り時間ではそううまくはいかない。報告書が書けないので、授業後補習をする。教え子その②はその日の授業で調子に乗ったことを自覚しているからマジメにやるが、教え子その③はそのままマジメにやらない。「やるときとやれないときに関して自覚を以って行動を選べ」と説教をしたら、「じゃあ今日はやる気がないので帰ります」。結局何も授業にならないまま19時半にすたすた帰ってしまった。
 で、私が鬱になる。
 最近、講師のドタキャンが多くなってきた。
 そんな折、代打で飛入りした講師が、我が帰り際に中学生の小テストをもってくる。
「先生、これ分かります?」
 面積比の問題だった。平行四辺形の中に何本か線を引いて、斜線部分は全体の何倍?ってヤツ。
 これが、難しかった。
 考えてみれば、中学生を主に見る現役学生の講師が分からないといってもってくるのだから、そんな簡単なわけがない。なんとかしたものの、結局30分残る羽目になった。1時限しか授業のない輩の退勤が22時となる。
          ◇◇◇
 15日(火)。
 教え子その②とその④の算数だが、これは無難に終了。
 本日はいつもの中学1年生の英語がキャンセルになったので、他の子供を診ることになる。
 中学1年生の数学。
 で、これがまた微妙だった。
 途中まで説明を聞いて解法を思いついても、独走しないで話を聞ける良い子なのだ。だから、近い中間試験の範囲などもキッチリ把握していて教えてくれる。
 だが、小テストの文章題(比例・反比例)が全然解けない。
 書く数式が、メチャクチャなのだ。どの辺が分かっていないのかが、パッと見て分からない。
 結局、方程式の「移項」が分かっていないという結論に結びついた。
 試しに小学4年生の教材から「逆算」を引っ張ってきてやらせると、ぜんぜんダメだった。
 4 × ( □ - 5 ) ÷ 8 = 10
 □を埋める計算。
 この理屈が、移項の理屈につなげて考えられているかを見たが、移項はおろか逆算自体も単純に出来ない。
 試験直前なだけに、どうしたらいいか、困った。次回に私はこの子を診ないだろう。次回に繋がるように取り計らうのが1番だと思ったし、それを塾長にも話して承認はもらった。
            ◇
 これが、火種を生んだ。
 放課後時間があったので、最近その子をよく担当していた学生講師に話してみた。移項が全然分かっていないと言ったら、一方的な反発をもらったわけである。「一方的な」というのは、こちらの観測した今回の授業の結果に関して聞く耳持たないという感じで、「あんたのやり方が悪いんじゃないの?」という風になりかねなかったから。
 そういえば、この人は入ってきた当初から「S郎にもできるくらいなら」などと口にするような勝気で強気な自信家だったことを思い出した。
 「私の勘違いかもしれない」といってその場を退くが、移項させて方程式を解くものでも、その項の記号が「プラスになるのかマイナスになるのか」で迷っていたし、当たる場合は勘とまでは言わないが、本人の中では確率50%なのだろう。実際、小4の逆算が出来なかったのだから。
 講師のデモンストレーションを見て、それを真似するカタチで、パッと見で出来ていても、理解して呑み込んでいなければ意味はないのだ。たぶん、その講師いわくの「できた!」というのは、理解した末に確信を以って回答できたことではないのだと思った。
            ◇
 なぜ我を張るのか――。
 私は文句を言ったつもりはなかった。こういう「あなたの担当していた子、これがわかんなかったよ」なんて話に近いから、気をつけてすらいたくらい。そもそもその子自体について、まったく知らなかったのだから。
 ああそうだ。なぜそうなるかもしれないと気を付けられるくらい分かっていて、こんな話をその講師にしたかといえば、その講師が次にその子を引き受ける可能性が高いと思ったからだ。実際、私が授業をしている間に入ってきて何かしらやってくるくらいだから、やっぱりこの人にも縄張り意識みたいなものがあるのだろう。
 我を張った末に怒り音を立てる人間は、もはや今更何の感慨も湧かないが、やはりいくらそんな人間ばかりの中で育ってきたとはいえども、馴れない。落ち着いて話の出来る者とは、やはり稀少なのかもしれない。
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